Arvidsjaur, Sweden 5日目(ADE on ICE PRO)

本日の気温は、オヤヂがスウェーデン入りしてから初の氷点下。そして初めての本格的な降雪となった。残念ながら、今日でスウェーデンを離れなければならないが、文字通り最後の悪足掻きとして、午前8時過ぎから約2時間、コース3で精一杯最後の氷上ドリフト走行を楽しんだ。インストラクタのRobからは、丁寧でしかも速さも備わった素晴らしいドライビングだョ、その調子!と賛辞を貰えた。

ギリギリまで氷上走行を楽しんだ後は、慌しくホテルをチェックアウトし、Arvidsjaur空港迄皆でマイクロバスで移動、空港で昼食を食べて、往路と同じAirBerlineに乗って、Hannover経由で夕方München入りした。Münchenでは、これも往路と同じKempinski Hotel Airport Münchenにチェックインし、5日振りの入浴(スウェーデンではずっとシャワーのみ)で心身ともに充分リラックス&リフレッシュを済ませて、やおらホテル傍のレストランへ出掛けた。そこで定番のSausages & Sauerkraut、生野菜サラダ及び生ビールを注文。オヤヂとしては1L(リットル)のジョッキからぐびぐび飲んでプファ~ッ!と行きたかったのだが、素敵な髭面のウェイターがビール1Lの注文は受け付けてくれず、どうしても500mLにしておけと譲らないので、仕方なく500mLで我慢しておいてやった。が、結果的にはそれで正解だったと思う。ソーセージもサラダも結構なボリュームだったし、生ビールもゆっくりとしか飲めない(急いで飲む気にならない)温度だったから。そう、飲食店で出される生ビールに、日本とドイツ(欧州)との間で決定的な差があるとすれば、それは温度だ。日本のビールは常に凍りそうなくらいキンキンに冷えているが、ドイツのビールは恐らく10℃程度にしか冷やされていない。そして、屋内が過剰に暖房されていることも殆ど無いので、それ程冷たくないドイツのビールは、暫くの間は出された時の温度の侭で留まっている。そういうビールを、人々はゆっくりと(チビチビと、とも言う)飲みながら、様々な話題で語り合う。オヤヂの観察結果では、300-500mLのジョッキ1杯で30分から1時間が相場かな。恰も喫茶店で珈琲を飲んでいるかの如き雰囲気で、ビールを飲みながら語らう人々を見ると、嗚呼、文化なんだなぁとしみじみ思う。日本の場合は、冷えたビールをゴクゴクと一気に飲む際の「喉越し」を大切にする傾向があるとオヤヂは思うし、オヤヂ自身、冷えたビールの一気飲みは大好きだが、ドイツ人はビールの「味」そのものを楽しみ、ビール(のグラスやジョッキ)を片手に語り合う、というその”スタイル”を大事にしているのだろう。

スウェーデン滞在中にも、ドイツ人たちは皆、ビール片手に大いに語るので、食事の前後の雑談中は、実に多岐に渡る話題で盛り上がり、オヤヂも随分と沢山のことを知った。勿論、殆どはドイツ語での会話なので、オヤヂには理解できないことが多かったが、気が向いたときに誰かが英語に訳してくれたり、最初からオヤヂを仲間に入れて英語で話してくれた時もあったので、彼らの話題の中心が何か、くらいはオヤヂにも大概察しがついた。言うまでもなく、頻度も費やす時間も多いのがクルマの話題だ。これまでAudiが採用し続けてきたトルセン・デフ(Torsen differential; トルセンは元来torque sensingの意味だが、Torsenとしてメーカー/ブランド名になっている)とハルデックス・カップリング(Haldex coupling)による4WD機構はどう違うのか、だの、最近のquattroは前後の基本トルク配分比がF:R=40:60(しかも可変)になって、加速/減速には有利だけれど、昔の50:50の配分比の時の方が4輪ドリフトがやり易かったのか否か、だの、Audi自慢の新機構Sports differentialとLSD (limited slip differential)の違いだの、クルマ(Audi)についての熱い議論が尽きることは無かった。そして、其々の話題の”締め”では、いつでもJanがエンジニア顔負けの膨大且つ詳細な知識を立て板に水の如く流麗に語るのが、酷く印象的だった。Audi Driving Academy Japanの田部雅彦インストラクタ・マスターか、斎藤聡チーフ・インストラクタじゃないと、技術的な”話題”でもJanにはとても太刀打ちできないな。

スマホ、タブレット型コンピュータ、ノート型コンピュータ、デジカメ、etc…、誰かが何れかの電子機器をポケットや鞄から出そうものなら、すぐに皆が群がり、どんなスペックなのかを微に入り細に入りチェックし合うドイツ人たち。あんたら日本でオタクと呼ばれる人種に輪を掛けた病的なオタクだヨ、とオヤヂは半ば呆れて(本当はドン引きして)その様子を眺めていたものだ。

そういえば、インストラクタ達は自らのことも色々と語ってくれた。Janは大学で経済学を専攻したこと(だけれども今の仕事には全く役に立っていない、と彼は苦笑していたけど、大学で学んだことを生かせる仕事に就いている人の方が、一般的には寧ろ珍しいんじゃないの?)、モータースポーツの世界に入る(プロのラリー・ドライバーになる)前は、ハンドボールのゴールキーパーだったこと(高身長な上に屈強そうな体躯な訳だよ)、誰かと同じく結婚には何度も失敗していること、スバル・インプレッサのラリー・カー(’98 WRCグループAホモロゲーション適合仕様車)を所有しているが、時間が巻き戻せるのならその車を買わずに人生を過ごしたいと思っていること、そして今年に入ってレース中の運転ミスでその車が大破し、ファミリーカーが一台買える程高額の修理費が掛かったこと、等々。

一方、もうひとりのインストラクタRobは、スコットランド訛り(?)の英語を使って、彼独特のユーモラスな語り口で、とっておきのエピソードを披露してくれた。米国フロリダ州マイアミで、Lamborghini Gallardo Spyderの発表展示会があった時のこと。1週間以上ホテルに滞在しながら、彼はホテルと展示会場との間を毎日、発表展示用Gallardo Spyderそのものを運転して往復していたそうだが、日を追うごとに彼の”通勤路”の沿道に見物客が増えて来たので、5日目以降は観客へのサービスの為に、ヒール&トウを駆使して目一杯ブリッピングしながら数段シフトダウンを繰り返して減速した後、今度は1速か2速ギアでレヴ・リミット(8,000rpm)迄エンジンを回しながら急加速する、というパフォーマンスを演じてやっていたそうだ。ノリのいいアメリカ人観光客である沿道の人々は、当然拍手喝采だったらしく、いかしたオープン・スポーツカーを転がして注目と喝采を浴びる恍惚感は今も忘れられない、ということだ。

しかし、この話はそれで終わりではない。そのあとRobが、ガラ空きのハイウェーをレンタカーで”ゆったり”と巡航していたところ、何処からともなく突然現れたパトカーに追跡され停止を命じられた。
お巡り「オマエ、時速何マイル出してるんだ!?」
Rob「90マイル(≒146km/h)ですけど何か?」
お巡り「何かじゃない!ハイウェーの制限速度は時速60マイル(≒96km/h)なのを知らんのか?」
Rob「そいつぁ知りませんでした。ドイツじゃこんなの日常茶飯事の速度なもので…。」
お巡り「オマエ、ドイツ人か?」
Rob「いえ、オランダ人です。」
お巡り「…?? い、いいから国際運転免許証を見せろ!」
Rob「そんなもの持っていません。米国とオランダの政府間取り決めで、両国の国民は自国の運転免許証だけで相手国でも自動車を運転してよいことになっているんです。」
お巡り「嘘をつくな! そんなの聞いた事が無いぞ。」
Rob「それは私の責任じゃありません。旦那が無知なだけでしょ。」
腰に挿していた拳銃を抜いたお巡り「なにぃ~、ふざけるな! オマエ、車から降りろ! 両脚を軽く開いてまっすぐに立ち、両手を後ろに回せ!」
こうしてお巡りに逮捕され、警察に連行されてしまったRob。当初は助手席で他人の振りをしながら黙って座っていた奥さんも、警官が怒って怒鳴り始めると半ベソをかき始め、警官が銃を抜いてRobに手錠を掛けた瞬間からは泣き叫んでパニック状態になったようで、流石にRobもこれには慌てたと苦笑いしていた。畢竟、警察からオランダ大使館に連絡が行き、警官の誤解も解けてRobは無事に釈放されたが、何故かブラックリストに載せられてしまい、いまだに米国での自動車運転は禁じられているそうだ。…出だしはどこぞの誰かのエピソードと似ていなくも無いけれど、スゲェな、Rob!

そんな楽しいエピソードを思い返しているうちに、2杯目のビール・ジョッキも空になり、酔いも軽く回ってきた。そろそろホテルの部屋に戻って寝るとするかな。

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