「ヤカン」に想う

先週木曜日に胸椎圧迫骨折を受傷して以来1週間以上、基本的にはずっと臥床安静を強いられていたので、退屈凌ぎに読書をしたり、DVD(映画)鑑賞をしたり、というのを毎日辟易する程繰り返して来た。読書の対象には、久し振りにRobin Cookの作品(“Seizure”)を選んでみた。

オヤヂは、学生の頃に誰かにRobin Cookを薦められて以来、彼の著作に暫く填り、新作が出るのを待ち焦がれてまでも読みまくった時期があった。特に、初期の作品である”Coma”,”Brain”,”Sphinx”,”Godplayer”などは大好きだし、”Outbreak”や”Harmful Intent”にも現実にありそうな話を小説にしたCookの才能に畏怖の念を禁じえなかった。けれども”Mutant”や”Abduction”等は荒唐無稽な感じが強過ぎて、さしものmedical thrillerの大御所も、遂に才能が枯渇してしまったのだとオヤヂは勝手に決めつけ、最近ではTess Gerritsenの作品を読むことが多かった。CookやGerritsen同様、医師の資格を持つ米国人作家で他に有名なのは、いわずと知れたMichael Crichtonであるが、勿論、彼の作品も好きだ。BostonにVisiting Assistant Professorとしてオヤヂが留学中、親方ProfessorがCrichtonのことを評して、”He is THE most famous graduate of this med school.”と(些か皮肉混じりに)言っていたのを思い出す。

今回は、最近の海外旅行中に、飛行機の中で読もうと思って空港で買ったけれども、結局読まずに抛ってあった”Seizure”に偶然気付いたので読んでみただけなのであるが、これが意外にも(と言うとCookに失礼だが)面白かった!いつもながらに、Cookの取材力の凄さには驚嘆させられたし、様々な「事実」の断片を「創作」で紡ぎ合せながら、見事な作品を織り上げてしまう彼の才能/手腕を、改めて尊敬し直した。

その小説の筋書きとは全く無関係なのだが、登場人物の一人の台詞に、「目糞鼻糞…」に相当する諺である”The pot calls the kettle black.”があった。そういえば中学生の頃(?)に、「諺で英語を学ぼう!」的な教材があったなぁ…、などと懐かしい思いをしながら、暇に任せて何となく”kettle”を辞書で引いてみてビックリ。”a kettle of fish”が「困った事態;めちゃくちゃな状態」と訳されているではないか!日本人のような外国人でさえ誰もが知っている単語でも、それらを組み合わせた慣用句となると、予想し難い意味になったりするので侮れない(とオヤヂは思う)。

実は、本を読む前に、Tom HanksSally Fieldという、後に夫々オスカーの主演賞を受賞する名優達が未だ若い頃に共演した映画、”Punch Line”を観た(因みに、タイトルは「冗句などの落ち」の意味)。その劇中、Sally Field扮する主婦が、来客をもてなす準備にてんやわんやになるシーンがあるのだが、キッチンの水道が壊れていて水が出ないため、仕方なく(?)子供達の飼っている金魚の水槽からヤカンに水を汲んで、お茶を入れるための湯を沸かした結果、金魚が一匹行方不明になってしまう。オヤヂは単に、あり得ない莫迦莫迦しさの表現だと思って観ていたのであるが、文字通り”a kettle of fish”を実演して見せることで、滅茶苦茶な忙しさを表現した、高尚な冗句だったことに後になって気付いた訳で、その瞬間、思わず唸ってしまった。

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