クマバチは飛べないィ〜ッ?

bumblebee.jpg早朝からベランダでオヤヂが趣味の園芸に勤しんでいたところ、ずんぐりした体型の中型の昆虫が立てる独特の羽音が聞こえて来た。オヤヂは一瞬カナブ ンの如き甲虫を思い浮かべたのだが、次の瞬間、その羽音の主が「ドスン」と屋根の縁に衝突する大きな音が聞こえ、続いて「ボトッ!」という更に大きな音を 立てて、その昆虫は落ちた。嘗てはコヒーテーブルであったが、風雨に晒されまくった後の今は園芸用作業台と化した、木製卓に向かっていたオヤヂの目の前 30cmに落ちて来たその虫は、なんとクマバチであった 😯 。

黒くて毛むくじゃらで大きな体が、熊を連想させることからその名が付いたといわれるクマバチ(熊蜂)が、ブ〜ン・ドスン・ボトッという音と共に突然 眼前に現れた時、オヤヂは「クマバチだ!」と思った直後から、動けなくなった。刺されると死者が出ることもあることから、マスコミ報道等でも騒がれる「ク マンバチ」は、「スズメバチ」の俗称であることは知っていたが、スズメバチ同様に大きなクマバチにだって刺されたら大変なことになりそうなので、蜂の注意 を惹くようなことはするべきでないと判断したからだ。しかし、あとで調べてみると、クマバチはおとなしい性格で、余程のことがない限りは人を襲う(刺す) ことはないらしい。

ところが、動けないオヤヂの前で、意外なことにクマバチも動かなかった。否、正確には動けないようだった。横向き(!)に卓上に転がった侭、こころ なしか間歇的に小さく痙攣しているようにさえ見えたクマバチは、猛スピードで飛行中に屋根に激突した為に、どうやら何某かのダメージを負い、人間で言えば 脳震盪か所謂「ショック」状態に陥っていたらしい。凡そ1〜2分はその状態が継続しただろうか。やがて、クマバチはゆっくりと起き上がり(側臥位から腹這 状態へ)、6本ある脚のうち最前の2本を使って、複眼を撫でるが如く擦り始めた。その様子は、恰も人間が「おぉ〜いってぇ〜っ(ああ痛い)」と言いながら 手で頭をさすっているようで、何ともユーモラスであり、オヤヂは刺されるかもしれないという恐怖心も忘れて、間近で見入ってしまった。やがてクマバチは、 だんだんとダメージから恢復しつつあるのが傍目にも判るようになって来て、相変わらず前脚で頭を摩る一方で、真ん中と後ろの4本の脚で胸や腹を摩り、肩こ りの人がやるように首/頭をぐるぐると回すようにさえなった。そうしてやおら、どこかへ飛び去って行ったのである。

その後、クマバチについてネット検索をし、人が襲われる危険性が殆ど無いことをしったのは前述の通りであるが、そのついでに意外な記述を山ほど見つ けた:「クマバチは航空力学的には飛べないらしい」とそこらじゅうのサイトに記載されているのだ。しかも、「『どう考えても』飛べない」等という本当に熟 慮したとは思えない修飾句が付いていたり、「どこかの教授が『飛べない筈の蜂が飛べるのは、彼らは自分が飛べると信じているからだ』と言った。」という類 の話まで紹介されていたりする。確かに、難解そうな学問を駆使して方程式の解を求めてみるとハチは飛べない筈だが、実は気合で飛んでいる、のだとしたら、 面白い。しかし、世界中を探してみると、驚くべきことに飛べる蜂が数匹発見された、というようなレベルの話ならともかくも、飛べない蜂を探す方が困難なの では、「学問的に飛べない筈だ」という仮説(?)の方が間違っていそうなことは、素人目にも明らかではないのか?これほど莫迦みたいにありそうも無い話 を、「学問」とか「教授」などの単語が散りばめられているだけで妄信し、風評を流すのにはもってこいのインターネットというメディアに平気で掲示しまくる 阿呆がゴマンといるのを知るにつけ、オヤヂは本当に哀しくなった。

クマバチが空中を自由に飛び回ることができるのは、紛れも無い事実である。この事実に学問的な理由付けを試みる場合、既に証明されている理論を引い てきたり、新たな理論を証明しつつ、それらを組み合わせることにより、ハチが飛べる理由を演繹するのが、自然科学の手法として一般的である。そして、自然 現象に、ある理論を当て嵌める場合、対象となる現象をなるべく単純化した「モデル」を作ることも一般的だ。例えば、雪山の斜面を滑りながら弧を描くスキー ヤーの動きを説明するのに、振り子の原理を当て嵌めるのがそうだ。で、もしも航空力学的なクマバチのモデルを作ったとして、そのモデルが飛べないという結 論が導き出されたのなら、そのモデル/理論が間違っていることになるだけで、クマバチは本当は飛べないのだという結論にはなり得ない。なぜなら、クマバチ が飛べるのは誰もが自分の目で簡単に見ることのできる事実であって、これから発見されるかもしれない生物が飛べるか否かを予言している訳でもなければ、既 に絶滅して誰も見たことの無い生物が飛べるか否かを検証している訳でもないからだ。

実際、ネット検索を少し真面目にやってみれば、WikipediaのBumblebeeの項に、”Bumblebee myths: flight”と題した説明文が容易く見付かる。それに拠れば、航空力学的にマルハナバチは飛べないとする誤った迷信は、ハチの羽ばたきの際に翼面には静的層流のみが発生すると仮定した計算が元になっているようだが、実際には層流が翼面から動的に剥離することで渦流が発生し、それが大きな揚力を生み出す、 という主旨らしい。「こちら気になる科学探検隊」のコラム、「飛べないといわれた昆虫のロボット・ショック」には、そのあたりの理屈がより詳しく紹介されている。

とにかく、クマバチは飛べる。しかし、飛びながら屋根にぶつかって墜落し、気絶し掛かるほど痛い目に合う事もある、というのをオヤヂはこの目で見 た、というお話だ。で、ここまで散々「『飛べない筈』だというデマを平気でネットに流すのは阿呆だ」と書き綴って来た訳だが、実はオヤヂも冒頭から嘘を書 いてしまった。賢明な読者は既にお気付きだろうが、中型昆虫の独特の羽音、とオヤヂが回想した「ブーン」という音は、実は羽音ではなく、音を発生する器官 が出しているものなのは、周知の事実。本題ではない部分の表現を簡略化するためとはいえ、気軽に嘘の表現をしてしまったことを、謹んでお詫び申し上げる。 😎

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