Mazda Roadsterに再び試乗

先日は、Mazda Roadster (現行NC型)のRS (スポーツ・グレード)に試乗し、6速マニュアル・トランスミッション (MT) や、ビルシュタイン社製ダンパー + 17インチ・タイヤに不満を感じたので、5速MT + ノーマル・ダンパー + 16インチ・タイヤを備えるベース・グレードに改めて試乗した。序でに、RHT (retractable hard top)のオートマチック・トランスミッション (AT) のクルマにも乗らせて貰った。

今日の順番としては、まずRHTのAT車、次いでベースのMT車、の順で乗ったのだが、Mazda Roadsterに乗るのは今日が初めての妻は、屋根を閉じたRHT車に乗った途端に、既に顔を顰めていた。これはヤバイ(怪しい雲行きだ)ぞ、とオヤヂが恐れていると、案の定、「狭いし、どこもかしこもチャチだね」という妻のコメントが聞こえてきた。直前に、新型Audi A4とA5に試乗し、TT Roadsterの展示を見てきたばかりだった為もあったかもしれない。オヤヂとしても、妻のコメントに積極的に反駁する理由も無かったので、そのまま走り出した。すると今度は、「何これ?うるさい音がするばっかりで、全然前に進まないじゃない!?」と来た。そりゃぁ、さっき乗ったAudi A4は静かだったし、充分に速かったけど、あなたのRenault Megane Glass Roof Cabrioletだって、ガス・ペダルを床まで踏み込んでもエンジンの一所懸命さが伝わってくるだけで、全然加速しないじゃぁあ~りませんか?翻って、妻の指摘は正しい: Mazda Roadster RHTのAT車は、エンジン/排気音から”期待”される加速度と、実際の加速度とに、大きな隔たりがあり過ぎる。内装に関しては、同じ車格なら、例えばBMWとAudiを比べるとAudiの方が断然高品質なのは認めるけれど、MazdaとAudiを比べるのは、間違っているでしょ:車格が違い過ぎる。Mazda Roadsterは、背伸びをせず、等身大のところがいい(らしい)んですよ、奥様。

そこで、RHT+ATバージョンのハンドリングを確かめる作業はキャンセルして、本来のお目当てである幌+5速MTバージョンのMazda Roadsterに乗り換えた。走り出すと、妻も多少は思い直したようで、「このクルマの方がさっきよりはマシだね。」という感想を漏らした。うん、悪くないゾ、5速MT仕様。シフト・フィールも、先日の6速MTよりもずっと滑らかだし、ギア比も、低いギアでエンジンを高回転まで回して引っ張るのが好きなオヤヂの運転スタイルに、より適している気がした。2年半前まで乗っていたHondaのS2000よりも、”気楽に愉しい”感じも直ぐに理解できた。

Honda S2000は、最高回転数9,000 r.p.m.で最高出力250馬力という、市販の直列4気筒2Lエンジンとしては世界最高と言われたエンジンを搭載していた(その後のモデルでは、排気量が2.2Lに拡大され、最高回転数は8,000に引き下げられた)。ホンダの開発陣(筆頭はNSXと同じ上原氏)は、NSXよりも小型のスポーツカーを作ろうとしたのだろう。しかし結果は、欲張り・凝り過ぎたせいで、中途半端なスポーティ・カーになってしまったと、オヤヂは思う。NSX-Rが盗まれたせいで、意図せずしてS2000に乗り換えることになったオヤヂは、車体の剛性感にこそ不満はなかったが、低速トルクの不足から常にエンジンの高回転域を使って走ることを要求される”扱い難さ”が好きになれなかった。9,000回転のエンジン音は悪くなかったが、9,000回転というのはあまりに非日常的過ぎる回転数でもあったのだ。

お金を掛けて開発し、お金を掛けて製造されたS2000は、中途半端に高価な販売価格のクルマになってしまったのも、災難だったと思う。NSXもそうだったが、Hondaのクルマは、プレミアム・ブランドにはなり得ない。歴史(会社の成り立ち)と国籍が、イメージを作り上げてしまっているので、S2000が例えBMW Z4やPorsche Boxterなどの欧州プレミアム・ブランドのオープン2シータに匹敵する/乃至はそれらを凌ぐ性能を持っていたとしても、それらと同じ値札を付けたのでは売れる訳がない。そこにS2000の不幸があった。(嘗ての)エンジン屋としてのホンダが、渾身の力を注ぎ込んで世に送り出したS2000は、中途半端に高性能で高価な商品になってしまい、熱心なホンダファンにそれなりに歓迎されただけの、風変わりなクルマで終わろうとしている。しかも、アラン・プロストやアイルトン・セナの活躍で1度はF1界を席巻したホンダ・パワーも、現在のF1では泣かず飛ばずで、既に嘗ての栄光は地に堕ちて泥塗れの状態だし、ホンダの企業イメージが今やミニバン屋に遷移してしまっているので、レースで勝てないミニバン屋が作った高価なスポーティカーが売れる筈もない。

そこへ行くと、Mazda Roadsterはイイ。最初から肩の力が抜けていて、無理せず気楽に走れるように設計されているし、実際それで十分に楽しめるクルマである事も、十数年間ずっと世界中で立派なセールスを記録し続けている事実が何よりの証拠として、とてもよく理解できる。お金に糸目をつけなければ、技術力のある会社(恐らく日本自動車産業界内の企業全て)なら、幾らでも高性能車を開発できるだろう。そして、お金さえ出せば、幾らでも高性能車を入手可能な時代だ。億単位のお金を払えるのなら、並みのレーシングカーなど相手にならない程、速くてしかも安全なクルマだって買える。しかし、速かったり、安全だったり、或いはその両方ともの性質を備えていたりするクルマが、乗って(運転して)楽しいクルマかどうかは、また別の話だ。200-300万円のMazda Roadsterと、500-600万円のBMW Z4では、品質や絶対性能ではBMW Z4に軍配が上がるが、運転して感じられる悦びに関しては、「等身大」のコンセプトがハッキリと理解可能なMazda Roadsterの方が、もしかすると上かもしれない。

うん、いいよ、このクルマ。折りしも今日は、オープン・カーで走るにはうってつけの、麗らかな春の晴天だった。試乗を終えてクルマから降りたオヤヂは、モノ言いたげな妻の顔を横目で見ながら(しかし彼女と目を合わさないように細心の注意を払って)、販売員に「これください。」と告げたのであった。

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