FISCOスポーツ走行: 雨! (Gallardo LP560-4)

本日は、エビス仲間のU氏と師匠(プロフェッショナル・レーシングドライバ)の井尻 薫 選手、そしてセミプロ・カメラマンのY氏と共に、富士スピードウェイ(FSW/FISCO)のスポーツ走行に出掛けた。オヤヂはLamborghini Gallardo LP560-4、U氏はBMW E60 M5(スーパーチャージャ仕様: 660馬力!!)とE36 325i(トミーカイラ仕様)を持ち込んだ。(※走行写真はY氏撮影・提供)

前日の天気予報では晴だった筈なのに、中央自動車道→東富士五湖道路経由のルートでFSWに向う途中、相模湖付近で雲行きが怪しくなり、山梨県/静岡県に入る頃にはすっかり雨に。畢竟サーキットに着いてからも、午前中一杯はずっと雨は本降り状態が続いた。今日の走行枠は、午前中に30分走行枠が2つあるだけだったので、要するに今日のコース・コンディションは、ずっとフル・ウェットであった。

本来なら、ドライ・コンディションで全開走行をして、先日装着したリア・ブレーキ冷却用の導風ダクトの効果を検証したいところだったが、折角わざわざFSW迄出掛けたのだから、雨だからといって走らないのも勿体無さ過ぎるということで、オヤヂは渋々且つ恐々、走り始めた。

オヤヂは以前、Mazda NCEC Roadsterで雨天のFSWを走行中に100Rでスピンを喫し、イン側のタイヤバリアに激突した苦い経験がトラウマとなっており、ウェット・コンディションのFSWには殊更苦手意識を感じてしまう。しかし、本日はリア・ブレーキ冷却用の新規装着導風ダクトの効果を検証しなければならないのだから、ということで、コーナー手前ではシッカリ減速して丁寧に旋回し、コーナー出口に向かっては立ち上がり加速を重視して可能な限り速度を上げる、という運転を心掛けた積りだ。その結果、ブレーキを比較的酷使する形になったせいか、約10周の走行終了直後の左側リアのキャリパ温度は、200℃超まで上がっていた(先日購入した非接触型赤外線放射温度計が大活躍!)。只、対側リアのキャリパ温度は160℃程度であったし、ロータ温度は左右とも140-150℃だったので、導風ダクトによるロータ冷却効果はそれなりに発揮されている可能性が覗えたし、左右差があるのは、右コーナーと左コーナーの数やキツさの違いでESP(electronic stability program)の介入度合い(≒前後左右のブレーキの効かせ具合)が異なる可能性と、単純に導風ダクトによる空気の当たり具合に左右差がある可能性とが、考えられた。因みに、フロント・ブレーキには左右で温度差は無く、ロータもキャリパも140℃前後であった。

ところで、走行後に井尻さんとディスカッションをしていて、オヤヂがとんでもなく驚いたことが1つある。タイヤの摩擦円(friction circle)に関する「誤解」がオヤヂにあることが解ったからだ。以下にその誤解を説明するが、多少専門的な基礎知識が必要となるので、まずは”背景解説”を少々…。

タイヤの路面に対するグリップを、縦(前後の直進)方向の摩擦力と、横(前後軸と直行する左右に”曲がる”)方向の摩擦力との、合力としてのベクトルで表記した図が、摩擦円である(図の左パネル参照)。乾いた舗装路面では摩擦力が大きくなるので円も大きくなり、水に濡れた路面では摩擦力が小さくなるので円も小振りになり、凍結路面では更に小さな円になる(図の右パネル)、というのは直感的に理解し易いので、クルマの挙動を説明する際に、オヤヂはこの摩擦円の手助けを借りるのが好きだ。ところで、この図では縦と横の摩擦力が同等で、共に1.0G(Gは標準重力加速度単位. 重力を意味する英単語”gravity”の頭文字を取ってgと表記され, 万有引力定数のGと区別するため, 小文字で書かれるのが常だが, 標準重力加速度の単位として用いられる場合は大文字でG [“ジー”と発音] と表記される[trivia!].)と記されているが、タイヤの縦方向と横方向のグリップは同等である必要は無いので、縦と横の其々の最大摩擦力に対する割合(言うまでもなく、最小が0で最大が1)で考える方が、より現実的であろう。即ち、摩擦力の「割合」で図示する限りは、摩擦円は概念上の「正円」となるが、例えば縦グリップが横グリップよりも極端に強いタイヤの場合、実際の摩擦力でプロットすると、摩擦円は縦長の楕円になる筈だ。

さて、ここからが漸く本題。オヤヂとしては、ウェット路面でコーナリング中に、意図せずにタイヤが滑ってしまう(特に横方向に)と、腕が無いのでコントロール不能になるし、そこでESPが介入すると無駄に失速することにもなる為、なるべくタイヤを滑らせないように走る、ということを心掛けていた。その結果、基本的にはタイヤの縦グリップを使って充分に減速した後、タイヤの横グリップが破綻しないように(というのか横グリップを使うことなど殆ど考慮せずに)「安全に」向きを変えて、再び縦グリップを使って加速する、というスタイルの走りをしていた積りだ。脳裏に描いていた摩擦円としては、ドライ路面よりもずっと小さいけれども殆ど紐状に極端に縦長の楕円である。

けれども、井尻さんのイメージは、ドライこそ縦長楕円の摩擦円になるが、ウェットの場合は正円か、寧ろ横長の楕円なんだそうだ。雨の日には晴れの日よりも、タイヤの横方向を使うように意識なさっていて、コーナーの進入からクリップまでは前輪の横グリップのギリギリを使うイメージなんだそうな。「ウエットはタイヤを発熱させた者勝ち」で、「発熱する→グリップする→もっと発熱する→もっとグリップする…」という循環関係なんだと。

その辺りは、ロガーで記録したデータを検討すると、良く判る。特にAコーナーから100Rに掛けてのステアリング操作を見ると、舵角としては、オヤヂも井尻さんも共に左右に90度ずつ程度なのに、井尻さんの転舵速度(ステアリングの角速度)は一瞬300度/秒の時もあり、150度/秒なんてザラなのだ。しかも、実際の舵角には殆ど現れない、ホンの僅かで一瞬の動きである。即ち、井尻さんの場合は、非常に微妙に「ピクピク」と瞬間的にステアリングを微調整しながら、(フロント)タイヤのグリップレベルを探りながら走っていることになる。一方でオヤヂは、ステアリングを動かしちゃ駄目だ、くらいの雰囲気で必至になって”ホールド”してしまっているので、転舵速度のグラフは山が低(棘が短)くて”滑らか”ではあるが、実際には肩や腕に力が入ってしまっているだけで、クルマの突然の挙動変化(タイヤグリップの破綻)に対応できない可能性が高い分、却って危険だと言えよう。また、オヤヂはタイヤの横方向グリップの限界を探りもせずに、只闇雲に恐る恐るコーナーを旋回しているだけなので、オヤヂが旋回中のタイヤのグリップ力としては摩擦円の円周上(=タイヤのグリップ力の限界点)から遥か内側に入った、「安全」だけれども「タイヤの能力を使い切れずに勿体無い」状態だとも言えよう。

公道での安全運転の心得ならばともかくも、サーキットで少しでも速く走る為には、滑るのは当たり前で、寧ろタイヤを微妙に滑らせながら、如何に自分の運転操作の制御下に置くか、を考えながら走らないと駄目だ;グリップの限界を大きく超えて(タイヤ摩擦円の外側にはみ出して)しまっては話にならないが、横グリップの限界付近を使いながら概念上の摩擦円を横に広げる努力を常に怠らないのが大切だ、ということを、井尻さんと話していて改めて気付かせて戴けた次第である。畢竟、雨天のオヤヂの運転スタイルを、抜本的に構築し直さないと駄目だ、というお話しである。

しかし、そうなるとステアリング操作とブレーキ操作(ブレーキの”抜き”)を連動させるのが、ドライの時よりも更にシビアになるので、いっそうの修練が必要になることは言うまでも無い。ん~、オヤヂにとっては益々課題が増えるばかりで、先が見えて来ないなぁ(嘆息)…。

結果的に、オヤヂが”安全に”周回できるのは2’17”-20″のタイムの時だけで、途中で一度は抜いたFerrari F430 Coupeに後ろから攻め立てられた時には、スピンしそうになりながら2’13″台で走ってはみたものの、 腕の差が歴然と現れる100R出口(ヘアピン侵入)であっさりと抜き去られる等、散々だった。傍で見ていた人々にとっては、黄色のLamborghiniと赤色のFerrariのバトルは、結構見応えがあって楽しかったらしいけれど(汁)。因みに、井尻さんの本日の参考タイムは2’07″台なのだから、ドライの時のタイム差(2-3秒程度)に比べて余りにも開きが大きく、オヤヂとしては情けない限りである。

蛇足だが、U氏のスーチャー仕様M5の化け物振りにも恐れ入ってしまった。フル・ウェットの悪条件の中、ホームストレートエンドで車速が280km/hに達したというのだ! 最終コーナーの立ち上がり(2速、或いは3速ギア)から4速ギアまでは、ずっと横滑り防止装置(DSC: dynamic slip control)が作動しっ放しだった(=加速抑制が掛かっていた)という。ドライ・コンディションなら、FSWのホームストレートで300km/hを出すのも夢ではなかろう。ロガー・データで見る限り、オヤヂのLP560-4では本日の最高速度は260km/h、ドライの時でも安全に1コーナーを曲がる為には270+αkm/hが精一杯なので、勝負にならんな。

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