死ぬかと思った(@フィンランド)

午後3時まで、”お腹一杯”に近くなる程、氷上ドライビングを堪能した後は、snow-scooter (日米で言うsnowmobile)での”雪原”探検ツアーに出掛けてみた。これはオプションのレクリエイション企画なので、Audi Driving Experienceの参加者全員ではなく、有志5人のみが参加した。(※写真は全て、プロカメラマンK氏の撮影)

Snow-scooterは、その名の通り雪上のスクーター(オートバイ)の如き乗り物である。通常のオートバイと異なり、前輪がソリ(橇)になっているが、ハンドルを切っただけでは曲がり難いのはどちらも同じで、曲がりたい方向への重心(荷重)移動が必要である。また、後輪はキャタピラ構造になっているので、車重も結構ありそうだ。インストラクタ兼道案内人のトミーから、基本的な操作や雪原走行中の注意点などの説明を受けた後、いざ出発!

「なぁーんだ、簡単ジャーン!?」というのが、オヤヂが最初に抱いた感想だ。ホテルのscooter置き場を出て暫くは、小高い丘に生えた木々(林)の間を抜ける形で、snow-scooter専用の圧雪通路ができており、スロットルレバーを”適当”に捻って速度を調節し、やはり”テキトー”にハンドルを操作するだけで、恰も列車の線路上を走るかの如く、いとも簡単にトミーの後をついてゆくことができたからだ。荷重移動も何も、難しいことは一切考える必要は無い。所詮、観光客のレクリエイション企画だからこんな程度なのだろう、とオヤヂが思い掛けた瞬間、今回取材で随行なさっている主婦の友社のM氏とカメラマンのK氏から、「もっと画(いい写真)になり易いように、大雪原を疾走したり、雪煙を上げながら縦横無尽に走り回れるようなところに連れて行って欲しい!」というリクエストが、すかさずトミーに伝えられた。

するとトミーは、「お廉い御用だ。2, 30分も走れば、新雪の積もった湖の氷上にでるから、そこで好きなだけ写真が撮れるよ。」という主旨の説明をしてくれた。ふうん、2, 30分ね。じゃあ、雪原で10分程度、遊びながら写真を撮って、また引き返して来るわけだから、あと1時間余りでホテルに戻れるということだよね。…イヤイヤ、とんでもない! それは途轍もなく大きな誤算だったことに、我々は間もなくに気付かされることになるのだ。

そうして暫く林間の小道を進むと、オヤヂたちの一行は、やがてトミーの言葉通り、恐らく湖上(=氷上)であることが伺える雪原に出た。ヒャッホーッ! 新雪だぁーっ! しかし、新雪は深雪で、丁度スキーと同様に、オヤヂのsnow-scooterフロントの橇がズブズブと沈み始める。い、いかん、もっと速度を上げねば。焦るオヤヂがスロットルを捻ると、scooterの速度は上がり、後方に荷重移動が起きた分、前方の橇は、やや雪面に浮き上がり気味になった。よしよし。が、疾走するsnow-scooterは、あっという間に湖岸(林)に近付く。ほ、方向転換しなきくちゃ、と思ったオヤヂは、左にハンドルを切ってみる。けれども、林間の小道では、on the rail感覚で苦もなく”道に沿って”曲がれたのに、ふわふわの雪原では全く勝手が違っていた。あれ? 曲がらないよぉ…? あぁ、そうか、重心移動を忘れてた! そしてオヤヂは、左側に体重を掛けてみた。すると、scooterの車体は左に傾き始めたが、進行方向は相変わらず元の儘で、一向に曲がる気配は見せない。えっ? 何で? どうして? 嗚呼、どうしよう?!!! とオヤヂが思っている間に、snow-scooterは横転してしまった。倒れて停まってみると、想像以上に重たいscooter。体の半分はscooterの下敷きになってしまっているオヤヂは、半ばパニック状態でスロットルを捻ってみるが、横転したscooter後輪のキャタピラは、雪上に露出してしまっている為、虚しく空を切るばかり。エンジン空吹かし状態のsooterとオヤヂは、一塊となり、ゆっくりと深雪の中に沈み込んで行く。先程までは、遠ざかって行く仲間のエンジン音が微かに聞こえていたが、雪にスッポリと埋まって塞がれたオヤヂの耳には、もう何も聞こえない。あぁ、終わったナ…。絶望感に打ちひしがれたオヤヂは、悪足掻きをさっさと諦め、雪に埋もれて凍死を覚悟し掛けた。すると、どこからともなく2本の逞しい腕が伸びてきて、苦もなくオヤヂごとscooterを引き起こしてくれた。トミーだ。そして、トミーが目一杯後輪(キャタピラ)に体重を掛けながら、鋭くスロットルレバーを捻り、一気にエンジン出力を上げると、雪に深く沈み込んでいたオヤヂのsnow-scooterは、呆気なく雪上に飛び出した。ふいぃー、命拾いしたぜ。有り難う、トミー。

しかしこれは未だ、「決死の」雪原探検ツアーの、ホンの序章に過ぎなかった。新雪/深雪の雪原は、自分達の手に余ることを思い知ったオヤヂたちは、トミーにホテルへ連れ帰って欲しい旨を伝えたのだが、優しいトミーは困惑顔で、「We’re NOT going back to the hotel.」と我々に告げた。えぇーっ? そ、そうなの? じゃぁ、どこに行くの? 何だ、お前ら知らなかったのかよ? と半ば呆れ顔のトミーの説明に拠れば、このあと我々はトナカイ牧場に寄り、そこでトナカイの橇に乗り換えてレストランに向い、この探検ツアーを取らなかった仲間達と合流して、一緒に夕食を食べる、という予定らしい。へぇ、そうだったんだ。そう言われてみると、インストラクタのChristophか、アシスタントのNadineがそんなことを言っていた気がしてきたナ。でも、目的地がレストランだと言われても、既に汗だくなんですけど…(気温は氷点下だけどね)? 大丈夫、レストランにはシャワーとサウナがあるから、とトミー。ほほう、でも、着替えは持ってませんけど…、まっ、イイか。それで、あと何分で着くの? んー、この後は速度を上げて突っ走るから、凡そ1時間くらいかな。!!…ヘーッ、結構遠いんだね。

という訳で、そのあとは、大雪原や林の中を、80km/h以上の猛スピードで疾走し続けた(いや、疾走し続ける筈だった)オヤヂたちは、更なる悪夢を見ることになった。暫くは、フルスロットルで気持ちよく疾走していたオヤヂたち一行だったが、そのうちに、オヤヂの目の前を走る仲間の1人が、次第に遅れ始めた。あとで聞いたら、ヘルメットのバイザー内側が曇ってしまい、前方の視界が極端に低下していたそうだ。そして、いつの間にか隊列から外れて、コース脇の木に激突! 横転して停止してしまった。けれども、遥か前方を疾走するトミーは、その事故に全く気付かずに、オヤヂの視界からも消え去ろうとしている。その場に留まるか、トミーを追うか、オヤヂは少し迷ったが、倒れた仲間の許には別の仲間が付き添っていたので、オヤヂはトミーを追うことにした。だが、幾ら走ってもオヤヂはトミーには追い付けず(当たり前だが)、畢竟、何気なく振り返ったトミーが異変に気付いて止まるまで、何km走ったことか! で、遥か彼方までトミーが引き返し、仲間を助けに行っている間、オヤヂは独りポツンと取り残されて、ひたすら仲間達を待つ羽目に。ふと気付くと、辺りは薄暗くなり始めている。そう、北極圏の日没は、勿論早い。

やがて、トミーと仲間達が戻って来た。幸い、木に激突した仲間に怪我は無く、我々はその儘、探検ツアーを続けることに。と言っても、万一仲間が怪我をしていたとしても、今更ホテルに引き返す訳にはゆかず、何れにせよトナカイ牧場乃至はレストランに向うしかなかっただろうけれど。既に夕闇迫る状態になっており、ヘッドライトの明りを頼りに走行せざるを得ない為、先程までよりはずっと速度が落ちる。しかも、雪原はいつの間にか消え去り、小さな凍結湖と林とが交互に現れる感じの場所を、木々の間を縫うようにして走るイメージだ。けれども、ホテル近くの林道走行と違い、この付近は他のsnow-scooterが最近通った痕跡は一切無い。従って、雪原ではなく林間なれど、新雪で深雪の中を進まねばならない。しかし、ハンドル操作の覚束ないオヤヂたちは、木々の間を縫って自由に走れる訳が無く、本来はトミーを先頭に一本の隊列を組んで走行する筈なのに、皆が思い思いの場所を走行することになる(その実、必死になって、取り敢えずは行ける処に行っているだけなのだが…)。が、新雪/深雪の中の自由走行は、基本的にオヤヂ達には無理なのは既に判っていた訳で、案の定、すぐに誰かがスタックしてしまう。スタックした仲間をトミーが救出する間、他の仲間達は已む無くその場に停止する。ところが、柔らかい深雪の上で、重量物が重力に逆らって留まっていられる筈は無く、snow-scooterは乗員諸共ズブズブと沈み始める。最初にスタックした仲間を救出し終わったトミーは、休む間もなく、新たに沈み始めた仲間を救出に掛かる。すると今度は、あっちに停まっていた仲間の助けを呼ぶ声が…。そんな感じで、トミーは延々と救助活動をし続けなければならず、オヤヂ達は一向に進めない儘に、永遠とも思える時間が悪戯に過ぎ去るのみ…。

しかしそれでも、蝸牛の歩みよろしく、一行が何とか少しずつ前進し始めた矢先、また誰かがスタックし、全員が止まった。疲れ切っている筈のトミーは、けれども疲れた様子を見せずに、すかさず救助にあたる。そして再出発。暗闇の中、互いのヘッドライトで照らし合いながら、皆スロットルレバーを捻る。本来なら静まり返っている筈の、雪に埋もれた真っ暗な凍結湖上に、一斉に鳴り響くエンジンの轟音。ところが、ここの雪は、柔らかな上に重く、フロントの橇の部分に纏わりつく感じで、snow-scooterがなかなか前に進み出さない。闇雲にスロットルを捻っても、後輪のキャタピラが空回り気味に雪を削るばかりで、ちっとも前に進まない。言わば、snow-scooterで自分の墓穴を掘りながらどんどんと下に潜って行く感じだ。そして数秒後、「墓穴」という言葉が冗句ではなくなる、衝撃の事象をオヤヂ達は見ざるを得なくなった: なんと、キャタピラで掘り返している雪の下から、水が湧き出てきたのだ! スロットルを捻って勢い良くキャタピラを回せば回す程、scooterは前進せずに、その場の雪と、更には驚くべきことにその下層の氷までもを、ガンガンと削って穴を開けてしまい、ついには穴から水が噴出してきたらしい。こ、こんなに隣接した状態で、重たいsnow-scooter (+太ったオヤヂ達)が氷に穴を開けまくってしまったら、やがては広範囲の氷が一気に割れて、皆一緒に湖水の中に投げ出されてしまうジャン? 氷が融け切らずに浮かんだ儘の水の温度は摂氏零度、というのは小学校理科で習うよね。ということは、湖水に浸かった瞬間に心臓麻痺は必発。皆一緒に湖底に沈んでしまうやないかぁーっ!? オヂサン、フィンランドの凍った湖に沈んで死ぬのか? いや、死んでから沈むのか? えぇえっ、でも、余りに急過ぎて(だって気楽にsnow-scooter体験ツアーに参加したダケだよ!)、思い残すことが一杯あり過ぎるなぁ…。無念だ!

等々と考えているうちに、幸いにも皆のsnow-scooterがほぼ同時に前に進み始め、オヤヂ達は一目散に陸地(と思しき所)迄到達することに成功、九死に一生を得たのであった。あとで聞いたら、凍結湖面に雪が降り積もり過ぎると、雪の重みで氷が水中に沈み、氷上に水が浸み出すことは、珍しくはないそうだ。そうか、キャタピラで削って氷に穴を開けてしまったから水が湧いてきたわけではなく、水の下にはちゃんと氷があった、という訳ね。だから、大騒ぎする必要は無かったし、勿論命懸けでも何でもなかった、ということか。なぁーんだ(汁)。

1時間どころか一生にも感じられた程長い時間(実際には2時間足らずか?)掛けて、やっとのことでトナカイ牧場に辿り着いたオヤヂ達は、そこでsnow-scooterとはおさらば(もう二度と乗らないぞ!)し、予定通りトナカイの橇に乗り換えた。オヤヂにとって意外だったのは、トナカイが色とりどりだったこと。カラフルと言い得るような色のバリエイションがあるわけではないが、白、灰色、茶色のうちの何れかが強く現れている毛並みになるため、要するに毛並みの色は、個体毎に千差万別なのだ。もっと、鹿が灰色っぽい色になった感じのモノトーンで統一されているのかと、オヤヂは勝手に思っていたのだが。

賢くておとなしいトナカイ達に牽かれた橇に乗ったオヤヂ達は、LED懐中電灯と僅かな星明りを頼りに、再び凍結湖面を横切り、レストランに到着。サウナで体を温め、シャワーで汗を流したあとは、露天風呂に入浴。日本の木製桶風呂に似た、楕円形の浴槽がポツンと戸外に置かれており、脱衣場(家屋)からはスッポンで屋外を走って、ザブンと浴槽に飛び込む仕組みなのだが、気温は氷点下数度だったので外気に曝された頭や顔は、寧ろ程好くひんやりとして心地よかったのだが、極端なぬるま湯だったので、流石に寒くて湯船から出られなくなってしまった。で、命懸け(笑)の探検ツアーを終えて、ギンギンの連帯感と友情が芽生えた仲間同士で語り合っているうちに、思わぬ長風呂に…。ふと気付くと、夕食が始まる午後7時半はとっくの昔に過ぎてしまっていた。慌てて湯船を飛び出し、寒さに打ち震えながら脱衣場のある建物に戻り、スポーツの汗というよりは主として冷や汗でずぶ濡れの儘の衣服を再度身に纏って、ダイニング・テーブルに行ってみると、雪原探検ツアーに参加しなかった人々から、「遅かったねー、待ちくたびれたよ! 何かあったの?」の言葉&眼差しの集中砲火を浴びせられた。しかし、それこそ我々探検組の思う壺というもの。待ってましたとばかり、「まあ聞いてよ。もう死ぬかと思ったんだから!」と、誰ともなしに命懸け(笑い)の冒険談を語り出し、夕食の場を大いに盛り上げることにまんまと成功したのだった。

楽しい晩餐が終わると、皆でマイクロバスに乗り込んでホテルに帰ったのであるが、帰路のマイクロバスの移動距離をみてオヤヂは、「探検ツアーで随分と遠くに出掛けたもんだ。そりゃぁ大変だったのも無理は無いよナ。」という感想を改めて抱いたのだった。

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