夕食後、ホテルのバーで、こだまさんとオヤヂがビールを注文して飲み始めて間も無く、オヤヂの携帯電話が鳴った。「今、オーロラが出てますよ!」「えー、マジッすかぁ? …行きます!」– という訳で、こだまさんとオヤヂは、ビアグラスを一気に空にすると、急いで自室にカメラを取りに戻り、連絡をくれた仲間の待つオーロラ観測所(周囲に灯りの無い、単なる広場だが)へと向かった。
月別アーカイブ: 2011年2月
氷上運転訓練3日目終了(@フィンランド)
氷上運転訓練の”仕上げ”とも言い得るイベントが、「ナイト・ラリー(night rally)」である。Lapland, Finlandの凍結湖面氷上特設コースは、当然ながら、公道や常設サーキットの如き照明設備を持たない。従って、夜間に氷上を走行する場合は、自車のヘッドライトの明かりのみが頼りとなるわけだが、何しろ、余程低速でグリップ走行しない限りは、普通にブレーキを踏んでも止まれないし、普通にステアリングを切っても曲がり切れない、ツルツル滑りまくるクネクネ道(コース)であるから、ドライバがヘッドライトの明かりで得られる視野の情報だけを頼りに、ある程度の(昼間の走行に近い)速度で走り抜け、タイムア・タックをする、などというのは絶対に不可能だ。
では、どうするか? 自動車競技としての「ラリー(rally)」と同様に、助手席に座ったナビゲイタが、ドライバに指示を出し、ドライバはその指示に従って、速度調節とステアリング操作を行なう、というシステムを採用するのだ。Rally競技では、予め下見走行をしながらペース・ノート(pace note)というのを作るらしい(図参照)。ダートや雪道の、連続するブラインド・コーナーを超高速で駆け抜け続けるrally競技では、ペース・ノートに基づいてナビゲイタが的確な指示を出し、ドライバはその指示を忠実にドライビングに反映させる、という作業が必須であるが、我々の暗闇の中での氷上ナイト・ラリーも、まさしくそういう競技である。
Audi Driving Experience Situation 6では、受講者2人が1組となって1台の車を交互に運転する、という形で氷上ドライビング・レッスンをすすめてきた訳だが、オヤヂは2日目以降、殆ど常に「こだま」さんをパートナーにして練習してきた。日本国内でも普段から仲好しのこだまさんとオヤヂは、氷上運転訓練でも息がピッタリ合っていた。やや過剰とも言えるダイナミックなスロットル操作を意図的に行って、派手なドリフトを繰り返し、クルマを自由に操る練習をするこだまさんに対して、慎重なスロットル操作で穏やか/滑らかなドリフトを心掛けるオヤヂは、互いの利点を素直に認め合い、パートナーのドライビングの良い点を自分のドライビングに取り入れることで、単独で練習するよりもずっと大きな学習効果をあげて来た。そこで、ナイト・ラリーでもその儘ペアとなることにし、2人でこの上なく真剣にペース・ノートを作成した。
昼間に散々走行練習をしたコースをそのまま走るのでは、いくら暗闇の中の走行とはいえ、かなり練習効果が現れてしまう可能性があるため、コース2と3を繋げた長距離コースを”逆走”する競技ルートが設定された。こだまさんとオヤヂは、日没前にその競技ルートをゆっくり走り、R3(中等度にキツイ右コーナー)、L1(緩やかな左コーナー)、St30(続いて直線20メートル)、L5SS(左のヘアピンで極度に滑り易い)、etc…という具合に、詳細なペース・ノートを作成。その上で、(未だ日没前なのでドライバ自身が広範な視野を持ってはいるのだが)本番のナイト・ラリーを想定し、ペース・ノートに基づいた”それなりの”高速試走も行ってみて、ペース・ノートの正確性と有用性を確認すると共に、我々の「勝ち」を確信したのであった。
ところが、走行直前に、こだまさんとオヤヂの脳裏を悪魔の囁きが過ぎった。「ところで、ESP (electronic stability program)はどうする?」「んー、なりふり構わず勝ちに行くなら、オンにして走ろう。」「うん、じゃあ、そうしよう。」–しかし、この決定がとんでもない過ちだったことを、こだまさんとオヤヂは競技開始後間も無く、思い知らされることになる。
「2人1組で1台の車両(当然ながら全車Audi S5 Sportback)を使用。1人目のドライバがゴールしたら、ドライバとナビゲイタは交替し、再度走行する。夜間なので、コースアウトして雪の壁にスタックしても、救出用トラクタの出動はない。従って、とある車両の1人目のドライバがコースアウトしたら、その車両は競技終了(リタイア)となり、1人目のドライバのみならず、2人目のドライバも、自動的に失格となるので、コースアウトには呉々も気をつけるように。」等々の注意を受けた後、早速競技開始。優勝候補筆頭であるこだまさんとオヤヂのペアは、こだまさんの運転で、一番最初にスタートした。LED懐中電灯で照らしたペース・ノートを淡々と読み上げるオヤヂ。それに応えて、やはり淡々と運転するこだまさん。昼間は雪煙を上げながら派手な四輪ドリフトを決めまくっていたこだまさんだが、今はESPのお陰で、殆どグリップ走行状態だ。無駄に滑ることなく、地味に効率良く、1つ1つ順番にコーナーを通過して行く。「滑らかで安定したクルマの動きだが、やや速度が低いか? いやいや、オーバースピードでコントロール不能に陥るより、押さえ気味の速度で確実に走った方がいいだろう…」などとオヤヂが考えていると、最初の難所がやって来た。「次、R3だけどSSだ(=とても滑りやすい)よ。」とオヤヂはこだまさんに伝えたが、クルマは比較的高い速度を保った侭で、キツ目で滑り易いコーナーに侵入して行く…。
「あれ? こだまさん、何でブレーキ踏んで減速しないの? あれあれ? ライン取りがおかしいよ。もっとイン(コーナー内側)に付かないと。あれあれあれ? どうしたの、クルマの向きが変だよ! 嗚呼!」というオヤヂの心の叫びが虚しく響く間に、クルマはコーナーの外側に大きく孕む軌跡を描きながら、ザザーッ、ドスン!!と雪の壁に突っ込み・乗り上げて停止した。終了。全てがあまりに呆気なく終わた。
そうなのだ、ESPがこまださんの運転操作を悉く邪魔したせいである。その瞬間迄はタイヤが路面に対するグリップ力を保っていたのに、何かの拍子に急にグリップを失ってしまった、というような状況ならば、クルマが挙動を乱すことなく、安全に走行を続けられるように、ESPは素晴らしい威力を発揮してくれる筈だ。ところが、氷上の”高速”走行のように、常にタイヤがグリップを失い続けている状況では、ESPも常に介入し続けてしまう。その結果、4輪のうち何れかの車輪には常にブレーキが掛かり、エンジンの出力は絞られてしまい、車両は運転手の意図とは無関係に、ゆっくり且つ真っ直ぐに進むように、車載コンピュータの制御下に置かれてしまうのだ。即ち、ドライバが加速したいとか曲がりたいとか考えて、それなりの運転操作を行ったとしても、その操作が結果としてクルマの動きに反映される余地は殆ど残されていない状態になる。そんな訳で、昼間はスロットル操作で荷重移動やタイヤのグリップをコントロールしていたこだまさんにとっては、自分の意図を常にESPに否定される形になって、クルマを思い通りに操るのとは対極の状況に追い込まれてしまっていたのだ。
やっぱり、セコイ事を考えて勝とうと思っても、巧く行かないんだね。半ば茫然自失の状態でオヤヂに詫び続けるこだまさんと、そのこだまさんを慰め、また走行機会喪失という想定外の出来事に遭遇した自らを慰めているオヤヂとは、身動き不能でハザード・ランプを点滅させている車内に並んで座りながら、他の競技車両が8回(ナイト・ラリー参加者は、我々2人を含めて総勢10人だったので)、脇を走り抜けて暗闇に消えてゆくのを、寂しく見送り続けたのであった。
競技終了後、Christophに無事救助して貰ったこだまさんとオヤヂは、「ESPを使ったんだって? 莫迦だねぇーっ!」とドイツ人インストラクタ達から嘲笑を浴びせられ、仲間である参加者達からは憐憫の眼差しを向けられながら、さっさと夕食を済ませ、憂さ晴らしの飲酒をするためにそそくさとバーへ向かったのは、勿論である。
氷上運転訓練3日目(@フィンランド)
Lapland, Finlandの氷上でのAudi Driving Experienceも3日目を迎えた。明日の午前中にも2時間程度は氷上走行が可能な予定になってはいるが、早目の昼食を食べたら直ぐに(帰国の為に)空港へ向かわねばならないので、思う存分氷上走行訓練ができるのは、今日が最後である。
凍結湖面の氷上走行コースは、1(短)、2(中)、3(長)に分かれており、番号が大きくなるにつれて、カーブのR(半径)が大きくなり、平均走行速度が高くなるように設計されている。本日はまず、ギアも4速まで使える(3速ホールドで、目一杯エンジンを回して”遊ぶ”ことも可能だが)し、最高速も80km/h以上に達する、コース3の走行練習から始まった。コース3は、カーブの曲率や道幅が、舗装路のレーシングサーキットと似ているので、オヤヂとしてはかなり「実践的」な走行練習ができた。勿論、折角の低μ路でグリップ走行をしたのでは意味がないので、4輪ドリフトをしながら”氷上サーキット”を周回した訳だが、派手なドリフトをするのではなく、4輪を滑らせながらも、コーナーからコーナーへ最短距離で移動する感覚、というのを少し掴み掛けることができた気がした。舗装路面のサーキットでは、恐らく200km/h超の速度で走行していないと、この氷上でのコース3と同様のドリフト状態というのは起き得ないだろうと思うので、普通なら命懸の一大決心をしないと体験し得ない状況を、連続して好きなだけ体験できるのは、本当にこの氷上運転訓練受講者の特権だ。
そして、コース3の走行に慣れたら、今度はコース2と3を繋いだ、1周するのに10分を要するロングコースの走行練習だ。2つのコースを繋いだからといって、それぞれを順番に走るのではなく、スタートはコース3だけれども、途中からコース2の一部を走り、次いでコース3の一部を走ってからまた2の後半に戻り、最後は3の残りを走ってゴール、というような設定になっている。その為、変化に富んだ”新”コースが出来上がっており、3日間の仕上げにはもってこいなのだ。実際、コース3で調子に乗っていると、コース2に切り替わった途端にオーバースピードでコーナーを曲がりきれないとか、逆にコース2を慎重に走行したあとにコース3に戻った直後は、巧く適正速度まで加速できずに、高速コース走行の醍醐味を味わい切れなかったりと、まだまだ課題だらけであることを痛感させられたオヤヂであった。
昼食後には、レクリエイション企画の1つとして、ヘリコプターに搭乗し、凍結湖上の氷上コースを俯瞰させて貰った。薄々は気付いていたが、空から眺めてみると、やはり昨年よりも細長い形の湖が使われているのが明らかで、コースも細長いレイアウトだった。
死ぬかと思った(@フィンランド)
午後3時まで、”お腹一杯”に近くなる程、氷上ドライビングを堪能した後は、snow-scooter (日米で言うsnowmobile)での”雪原”探検ツアーに出掛けてみた。これはオプションのレクリエイション企画なので、Audi Driving Experienceの参加者全員ではなく、有志5人のみが参加した。(※写真は全て、プロカメラマンK氏の撮影)
Snow-scooterは、その名の通り雪上のスクーター(オートバイ)の如き乗り物である。通常のオートバイと異なり、前輪がソリ(橇)になっているが、ハンドルを切っただけでは曲がり難いのはどちらも同じで、曲がりたい方向への重心(荷重)移動が必要である。また、後輪はキャタピラ構造になっているので、車重も結構ありそうだ。インストラクタ兼道案内人のトミーから、基本的な操作や雪原走行中の注意点などの説明を受けた後、いざ出発!
「なぁーんだ、簡単ジャーン!?」というのが、オヤヂが最初に抱いた感想だ。ホテルのscooter置き場を出て暫くは、小高い丘に生えた木々(林)の間を抜ける形で、snow-scooter専用の圧雪通路ができており、スロットルレバーを”適当”に捻って速度を調節し、やはり”テキトー”にハンドルを操作するだけで、恰も列車の線路上を走るかの如く、いとも簡単にトミーの後をついてゆくことができたからだ。荷重移動も何も、難しいことは一切考える必要は無い。所詮、観光客のレクリエイション企画だからこんな程度なのだろう、とオヤヂが思い掛けた瞬間、今回取材で随行なさっている主婦の友社のM氏とカメラマンのK氏から、「もっと画(いい写真)になり易いように、大雪原を疾走したり、雪煙を上げながら縦横無尽に走り回れるようなところに連れて行って欲しい!」というリクエストが、すかさずトミーに伝えられた。
するとトミーは、「お廉い御用だ。2, 30分も走れば、新雪の積もった湖の氷上にでるから、そこで好きなだけ写真が撮れるよ。」という主旨の説明をしてくれた。ふうん、2, 30分ね。じゃあ、雪原で10分程度、遊びながら写真を撮って、また引き返して来るわけだから、あと1時間余りでホテルに戻れるということだよね。…イヤイヤ、とんでもない! それは途轍もなく大きな誤算だったことに、我々は間もなくに気付かされることになるのだ。
そうして暫く林間の小道を進むと、オヤヂたちの一行は、やがてトミーの言葉通り、恐らく湖上(=氷上)であることが伺える雪原に出た。ヒャッホーッ! 新雪だぁーっ! しかし、新雪は深雪で、丁度スキーと同様に、オヤヂのsnow-scooterフロントの橇がズブズブと沈み始める。い、いかん、もっと速度を上げねば。焦るオヤヂがスロットルを捻ると、scooterの速度は上がり、後方に荷重移動が起きた分、前方の橇は、やや雪面に浮き上がり気味になった。よしよし。が、疾走するsnow-scooterは、あっという間に湖岸(林)に近付く。ほ、方向転換しなきくちゃ、と思ったオヤヂは、左にハンドルを切ってみる。けれども、林間の小道では、on the rail感覚で苦もなく”道に沿って”曲がれたのに、ふわふわの雪原では全く勝手が違っていた。あれ? 曲がらないよぉ…? あぁ、そうか、重心移動を忘れてた! そしてオヤヂは、左側に体重を掛けてみた。すると、scooterの車体は左に傾き始めたが、進行方向は相変わらず元の儘で、一向に曲がる気配は見せない。えっ? 何で? どうして? 嗚呼、どうしよう?!!! とオヤヂが思っている間に、snow-scooterは横転してしまった。倒れて停まってみると、想像以上に重たいscooter。体の半分はscooterの下敷きになってしまっているオヤヂは、半ばパニック状態でスロットルを捻ってみるが、横転したscooter後輪のキャタピラは、雪上に露出してしまっている為、虚しく空を切るばかり。エンジン空吹かし状態のsooterとオヤヂは、一塊となり、ゆっくりと深雪の中に沈み込んで行く。先程までは、遠ざかって行く仲間のエンジン音が微かに聞こえていたが、雪にスッポリと埋まって塞がれたオヤヂの耳には、もう何も聞こえない。あぁ、終わったナ…。絶望感に打ちひしがれたオヤヂは、悪足掻きをさっさと諦め、雪に埋もれて凍死を覚悟し掛けた。すると、どこからともなく2本の逞しい腕が伸びてきて、苦もなくオヤヂごとscooterを引き起こしてくれた。トミーだ。そして、トミーが目一杯後輪(キャタピラ)に体重を掛けながら、鋭くスロットルレバーを捻り、一気にエンジン出力を上げると、雪に深く沈み込んでいたオヤヂのsnow-scooterは、呆気なく雪上に飛び出した。ふいぃー、命拾いしたぜ。有り難う、トミー。
しかしこれは未だ、「決死の」雪原探検ツアーの、ホンの序章に過ぎなかった。新雪/深雪の雪原は、自分達の手に余ることを思い知ったオヤヂたちは、トミーにホテルへ連れ帰って欲しい旨を伝えたのだが、優しいトミーは困惑顔で、「We’re NOT going back to the hotel.」と我々に告げた。えぇーっ? そ、そうなの? じゃぁ、どこに行くの? 何だ、お前ら知らなかったのかよ? と半ば呆れ顔のトミーの説明に拠れば、このあと我々はトナカイ牧場に寄り、そこでトナカイの橇に乗り換えてレストランに向い、この探検ツアーを取らなかった仲間達と合流して、一緒に夕食を食べる、という予定らしい。へぇ、そうだったんだ。そう言われてみると、インストラクタのChristophか、アシスタントのNadineがそんなことを言っていた気がしてきたナ。でも、目的地がレストランだと言われても、既に汗だくなんですけど…(気温は氷点下だけどね)? 大丈夫、レストランにはシャワーとサウナがあるから、とトミー。ほほう、でも、着替えは持ってませんけど…、まっ、イイか。それで、あと何分で着くの? んー、この後は速度を上げて突っ走るから、凡そ1時間くらいかな。!!…ヘーッ、結構遠いんだね。
という訳で、そのあとは、大雪原や林の中を、80km/h以上の猛スピードで疾走し続けた(いや、疾走し続ける筈だった)オヤヂたちは、更なる悪夢を見ることになった。暫くは、フルスロットルで気持ちよく疾走していたオヤヂたち一行だったが、そのうちに、オヤヂの目の前を走る仲間の1人が、次第に遅れ始めた。あとで聞いたら、ヘルメットのバイザー内側が曇ってしまい、前方の視界が極端に低下していたそうだ。そして、いつの間にか隊列から外れて、コース脇の木に激突! 横転して停止してしまった。けれども、遥か前方を疾走するトミーは、その事故に全く気付かずに、オヤヂの視界からも消え去ろうとしている。その場に留まるか、トミーを追うか、オヤヂは少し迷ったが、倒れた仲間の許には別の仲間が付き添っていたので、オヤヂはトミーを追うことにした。だが、幾ら走ってもオヤヂはトミーには追い付けず(当たり前だが)、畢竟、何気なく振り返ったトミーが異変に気付いて止まるまで、何km走ったことか! で、遥か彼方までトミーが引き返し、仲間を助けに行っている間、オヤヂは独りポツンと取り残されて、ひたすら仲間達を待つ羽目に。ふと気付くと、辺りは薄暗くなり始めている。そう、北極圏の日没は、勿論早い。
やがて、トミーと仲間達が戻って来た。幸い、木に激突した仲間に怪我は無く、我々はその儘、探検ツアーを続けることに。と言っても、万一仲間が怪我をしていたとしても、今更ホテルに引き返す訳にはゆかず、何れにせよトナカイ牧場乃至はレストランに向うしかなかっただろうけれど。既に夕闇迫る状態になっており、ヘッドライトの明りを頼りに走行せざるを得ない為、先程までよりはずっと速度が落ちる。しかも、雪原はいつの間にか消え去り、小さな凍結湖と林とが交互に現れる感じの場所を、木々の間を縫うようにして走るイメージだ。けれども、ホテル近くの林道走行と違い、この付近は他のsnow-scooterが最近通った痕跡は一切無い。従って、雪原ではなく林間なれど、新雪で深雪の中を進まねばならない。しかし、ハンドル操作の覚束ないオヤヂたちは、木々の間を縫って自由に走れる訳が無く、本来はトミーを先頭に一本の隊列を組んで走行する筈なのに、皆が思い思いの場所を走行することになる(その実、必死になって、取り敢えずは行ける処に行っているだけなのだが…)。が、新雪/深雪の中の自由走行は、基本的にオヤヂ達には無理なのは既に判っていた訳で、案の定、すぐに誰かがスタックしてしまう。スタックした仲間をトミーが救出する間、他の仲間達は已む無くその場に停止する。ところが、柔らかい深雪の上で、重量物が重力に逆らって留まっていられる筈は無く、snow-scooterは乗員諸共ズブズブと沈み始める。最初にスタックした仲間を救出し終わったトミーは、休む間もなく、新たに沈み始めた仲間を救出に掛かる。すると今度は、あっちに停まっていた仲間の助けを呼ぶ声が…。そんな感じで、トミーは延々と救助活動をし続けなければならず、オヤヂ達は一向に進めない儘に、永遠とも思える時間が悪戯に過ぎ去るのみ…。
しかしそれでも、蝸牛の歩みよろしく、一行が何とか少しずつ前進し始めた矢先、また誰かがスタックし、全員が止まった。疲れ切っている筈のトミーは、けれども疲れた様子を見せずに、すかさず救助にあたる。そして再出発。暗闇の中、互いのヘッドライトで照らし合いながら、皆スロットルレバーを捻る。本来なら静まり返っている筈の、雪に埋もれた真っ暗な凍結湖上に、一斉に鳴り響くエンジンの轟音。ところが、ここの雪は、柔らかな上に重く、フロントの橇の部分に纏わりつく感じで、snow-scooterがなかなか前に進み出さない。闇雲にスロットルを捻っても、後輪のキャタピラが空回り気味に雪を削るばかりで、ちっとも前に進まない。言わば、snow-scooterで自分の墓穴を掘りながらどんどんと下に潜って行く感じだ。そして数秒後、「墓穴」という言葉が冗句ではなくなる、衝撃の事象をオヤヂ達は見ざるを得なくなった: なんと、キャタピラで掘り返している雪の下から、水が湧き出てきたのだ! スロットルを捻って勢い良くキャタピラを回せば回す程、scooterは前進せずに、その場の雪と、更には驚くべきことにその下層の氷までもを、ガンガンと削って穴を開けてしまい、ついには穴から水が噴出してきたらしい。こ、こんなに隣接した状態で、重たいsnow-scooter (+太ったオヤヂ達)が氷に穴を開けまくってしまったら、やがては広範囲の氷が一気に割れて、皆一緒に湖水の中に投げ出されてしまうジャン? 氷が融け切らずに浮かんだ儘の水の温度は摂氏零度、というのは小学校理科で習うよね。ということは、湖水に浸かった瞬間に心臓麻痺は必発。皆一緒に湖底に沈んでしまうやないかぁーっ!? オヂサン、フィンランドの凍った湖に沈んで死ぬのか? いや、死んでから沈むのか? えぇえっ、でも、余りに急過ぎて(だって気楽にsnow-scooter体験ツアーに参加したダケだよ!)、思い残すことが一杯あり過ぎるなぁ…。無念だ!
等々と考えているうちに、幸いにも皆のsnow-scooterがほぼ同時に前に進み始め、オヤヂ達は一目散に陸地(と思しき所)迄到達することに成功、九死に一生を得たのであった。あとで聞いたら、凍結湖面に雪が降り積もり過ぎると、雪の重みで氷が水中に沈み、氷上に水が浸み出すことは、珍しくはないそうだ。そうか、キャタピラで削って氷に穴を開けてしまったから水が湧いてきたわけではなく、水の下にはちゃんと氷があった、という訳ね。だから、大騒ぎする必要は無かったし、勿論命懸けでも何でもなかった、ということか。なぁーんだ(汁)。
1時間どころか一生にも感じられた程長い時間(実際には2時間足らずか?)掛けて、やっとのことでトナカイ牧場に辿り着いたオヤヂ達は、そこでsnow-scooterとはおさらば(もう二度と乗らないぞ!)し、予定通りトナカイの橇に乗り換えた。オヤヂにとって意外だったのは、トナカイが色とりどりだったこと。カラフルと言い得るような色のバリエイションがあるわけではないが、白、灰色、茶色のうちの何れかが強く現れている毛並みになるため、要するに毛並みの色は、個体毎に千差万別なのだ。もっと、鹿が灰色っぽい色になった感じのモノトーンで統一されているのかと、オヤヂは勝手に思っていたのだが。
賢くておとなしいトナカイ達に牽かれた橇に乗ったオヤヂ達は、LED懐中電灯と僅かな星明りを頼りに、再び凍結湖面を横切り、レストランに到着。サウナで体を温め、シャワーで汗を流したあとは、露天風呂に入浴。日本の木製桶風呂に似た、楕円形の浴槽がポツンと戸外に置かれており、脱衣場(家屋)からはスッポンで屋外を走って、ザブンと浴槽に飛び込む仕組みなのだが、気温は氷点下数度だったので外気に曝された頭や顔は、寧ろ程好くひんやりとして心地よかったのだが、極端なぬるま湯だったので、流石に寒くて湯船から出られなくなってしまった。で、命懸け(笑)の探検ツアーを終えて、ギンギンの連帯感と友情が芽生えた仲間同士で語り合っているうちに、思わぬ長風呂に…。ふと気付くと、夕食が始まる午後7時半はとっくの昔に過ぎてしまっていた。慌てて湯船を飛び出し、寒さに打ち震えながら脱衣場のある建物に戻り、スポーツの汗というよりは主として冷や汗でずぶ濡れの儘の衣服を再度身に纏って、ダイニング・テーブルに行ってみると、雪原探検ツアーに参加しなかった人々から、「遅かったねー、待ちくたびれたよ! 何かあったの?」の言葉&眼差しの集中砲火を浴びせられた。しかし、それこそ我々探検組の思う壺というもの。待ってましたとばかり、「まあ聞いてよ。もう死ぬかと思ったんだから!」と、誰ともなしに命懸け(笑い)の冒険談を語り出し、夕食の場を大いに盛り上げることにまんまと成功したのだった。
楽しい晩餐が終わると、皆でマイクロバスに乗り込んでホテルに帰ったのであるが、帰路のマイクロバスの移動距離をみてオヤヂは、「探検ツアーで随分と遠くに出掛けたもんだ。そりゃぁ大変だったのも無理は無いよナ。」という感想を改めて抱いたのだった。
氷上運転訓練2日目終了(@フィンランド)
FinlandのLaplandでの氷上ドライビング・レッスンが2日目を迎えた。午前7時から朝食を摂った後、昨日同様に午前8時には車(Audi S5 Sportback: Supercharged 3.0 liter engine [333 hp])に乗り込み、凍結湖に向う。
レッスンも2日目ともなると、走行コースの距離も伸び(1周約3km)、走行速度域も高くなる。昨日は、7速あるギアのうち、2速ギアしか使わず、速度も20-40km/hで走行することが殆どだったが、本日は3速ギアまでシフトアップし、速度も80km/h程度まで出せる区間があったりするのだ。昨日よりも、カーブ(コーナー)の曲率が低く、コース幅も広いところが多い上に、短い直線区間まであったりする為だが、摩擦係数(μ)の低い氷の上で走行速度を上げると、低速度域の走行に比べて、運転操作としては、俊敏さ、正確さ、繊細さが、より高い次元で要求されるようになる。低μ路では、曲がり難く、止まり難いのだから、車の動き(の変化)をより敏感に感じ取り、尚且つコースを”先読み”しながら、より繊細且つ正確に運転操作をするように心掛け、もしも運転手の意図と違う動きを車がし始めたら、即座にそれを感じ取って、俊敏且つ正確な(そして勿論適切な)対策を取らなければならない。ブレーキングの遅れ、ステアリングの切り始めの遅れ、カウンターステアリングの遅れ、そしてオーバーアクション、etc.は、全てが命取りになる。即ち、昨日よりもより深く激しく雪の壁に突き刺さり、広大な氷原の遥か遠くにいるトラクターの救助が受けられるのを、延々と待ち続けることになるのだ。その寂しさ、悔しさ、情けなさといったら…。今日のオヤヂは、午前と午後に其々1回ずつ、トラクターのお世話になり、名札に穴を合計2つ、開けられた。しかし、負け惜しみを言う訳ではないが、俊敏・正確・繊細・適切な運転操作ができる確率は、以前よりも上がって来ているとは思う(昨年迄はその確率が1割にも満たなかったのに、今年は5割は超えているかな、と)。
オーロラ観測成功!(@フィンランド)
初日の氷上運転訓練終了(@フィンランド)
本日は、Laplandの凍結湖上での氷上ドライビング・レッスン初日だ。朝食を食べ、カリキュラムの内容説明や(氷上)ドライビングの基本(“イロハ”)についての簡単な講義を受けた後、いよいよ湖に向けて出発!
凍結した湖の「上」に到着したら、早速走行練習開始だ。摩擦係数(μ)の極端に低い氷上では、普通にステアリングを切ってタイヤの向きを変えただけでは、カーブを巧く曲がることはできない。タイヤ(前輪)が滑ってしまって、ステアリングを切った量に見合った方向に進まず、直進し続けようとしてしまう。所謂、「アンダーステア」の状態だ。この状況をなるべく解消すべく、まずはステアリングを切ったら、車が向きを変え始めてくれるように、前輪が滑りにくい状態を意図的に作り出してやる運転技術が必要になる訳だ。それが即ち、荷重移動である。スロットルをオフにする、もしくはブレーキを掛ける、の何れかで、車が前に”つんのめる”形を作り出してやることで、前輪に掛かる荷重が増え(=荷重とミューの積である摩擦「力」が増し)、ステアリングを切った結果に車が反応し易くなる(=曲がり始め易くなる)。
しかし、それだけでは実際には未だ、氷上の車はカーブを巧く曲がってくれない。曲がり易くはなっても、極端な低μ路では、依然としてアンダーステア状態は続いてしまうのだ。ではどうするか? 前輪への荷重移動で、車がステアリング操作に多少反応するようになり、曲がる”きっかけ”を作ってやったら、今度は意図的に後輪を滑らせながらカーブの外側に押し出して(流して)やるのだ。所謂、「オーバーステア」の状態迄、車を意図的に持って行く;そうすることで、車(の鼻先)は急に向きを変え始めるのである。幸い、氷上の如き極端な低μ路では、前輪に荷重が移っている状態、即ち後輪の加重は抜けている状態で、ステアリングを切ることで車が向きを変え始めると、その儘待つだけで後輪が滑り出し、慣性の法則に従ってカーブの外側に流れ始めるので、自然にオーバーステア状態になり易い。もしも自然に後輪が流れ始めなければ、軽くスロットルを開けて後輪を回転させてやることで、後輪の摩擦力を下げられる(なぜなら静止摩擦係数よりも動摩擦係数の方が低いから)ので、後輪は流れ出す。
けれども、ここまででも未だ、車は運転者が最終的に進みたい方向には進んでくれない。オーバーステア状態が持続した儘では、やがて車の向きは変わり過ぎてしまい、所謂「スピン」状態に入ろうとしてしまう。それを防止する(打ち消す)為にはどうするか? 今度は、先程までとは逆方向にステアリングを切って、再度車の向きを変えてやるのだ。所謂「カウンターステア」を当てる、という奴だ。加えて、適度にスロットルを開け(たり閉めたりを繰り返し)、後輪の滑り具合や前後の荷重移動を調節することで、車は四輪を滑らせながらも、運転者が曲がりたい方向に進んでくれることになる。所謂「ドリフト」状態で格好良くカーブを走り抜ける訳だ。
このドリフトを、様々な曲率や長さのカーブに合わせて、連続してスムーズに行いながら、いつまでも走り続けられるようにするのが、Audi Driving Experience Situation 6の最大の目的である。蛇の如くクネクネとうねる、左右交互の連続したカーブでは、最初のカーブをドリフトしながら抜けた直後に、今度は直ぐに反対向きにドリフトを始めなければならないので、一度直進しながら体制を立て直す時間は無く、寧ろ、最初のカーブを抜け切った瞬間の反動(“揺り戻し”)で、反対側に車の向きを変えるきっかけを作る、というような感じの運転になる。ひらり、ひらり、ひらり、或いはひょい、ひょい、ひょい…と左右に体を傾けながら、障害物を避けるようにして進んで行くイメージだ。昨年のオヤヂは、この揺り戻しを使ったドリフト走行が全くできなかったが、今年は何とかできる(ことがある)ようになったのが、自分で感じられた進歩かなぁ。では、ドリフトに失敗するとどうなるか? カーブを曲がりきれずにコースの外側に飛び出してしまう、或いは、スピンしてカーブの内側に突っ込んでしまうと、そこにはふかふかの雪の”壁”が待っていて、雪壁に深く突っ込んだ際には、車は自力で動けなく(=脱出できなく)なってしまう。そんな時には、トラクターが出動して、牽引ロープで車を雪壁中から引っ張り出してくれる。そして救助を受けた記念にと、運転者の名札(プラスチック製)に、1回の救助毎に1個、パンチで穴を開けてくれるのである。オヤヂは本日、この有り難い穴を、3個も開けて貰ってしまった。
楽しい氷上走行を、文字通り朝から晩(夕暮れ前)迄堪能した後は、ホテルの自室でサウナに入り、シャワーを浴びて、夕食だ。おっと、その前に「こだま」さんとビールを片手に本日の走行の反省会をしなきゃ。